解決事例報告

関西大学アカデミック・ハラスメント事件 

2018.06.06 安原邦博

1 はじめに

本年(2018年)4月25日に大阪地裁で判決が言い渡されました、関西大学・大学院におけるアカデミック・ハラスメント事件について報告いたします。

 

2 事案の概要

本件は、指導担当教授の大学院生に対するアカデミック・ハラスメントと、当該ハラスメントにかかる大学の対応について、当該教授と大学の責任を問うている事案です。

原告は、2013年4月に関西大学・大学院社会学研究科社会システムデザイン専攻(博士前期課程)に入学した大学院生であったところ、指導担当教授より、2013年11月末頃から翌年(2014)年5月初旬にかけて、主に次の(1)のアカデミック・ハラスメントを受けました。

さらに原告は、関西大学に助けを求めて指導担当教授によるハラスメントの相談・申告をしたのに、大学から放置をされ、著しく遅滞した上に不十分な対応等をされるという更なるアカデミック・ハラスメント(次の(2))を受けました。

原告は、これらアカデミック・ハラスメントにより、2015年度以降は休学、そして2017年6月には退学に追い込まれたため、担当教授及び関西大学を被告として、合計約600万円を(うち約100万円は関西大学のみに対し、次の(2)により原告が受けた精神的損害として)請求する損害賠償請求訴訟を闘っています。

(1)指導担当教授によるアカデミック・ハラスメント

①労働組合活動の自由等の侵害
原告が、自身も務めていたTA(ティーチング・アシスタント)の交通費を関西大学が基本的に支給してないことに疑問をもったこと等をきっかけに、TAの交通費についての問題提起や労働組合活動等をしていたところ、指導担当教授が、関西大学の教育開発支援センター長としてTAを管轄するT教授より情報提供や原告の活動への対応の依頼を受けて、原告に対する優越的な立場を利用し、原告を何度も叱責し、従わないならば指導担当教授自身が職を辞する(すなわち原告への指導を止める)などと原告を脅して、組合を脱退させる等しました。

②不合理な理由による、一方的な、遠隔地滞在型フィールドワーク派遣・指導の中止
指導担当教授は、原告を、修士論文の研究のために、約1年の予定で遠隔地滞在型フィールドワークに派遣していたところ、「多地点システム」(ネットで原告(現地)と指導担当教授(大阪)が通信をするシステム)を通信前にテストしたか否かに関する認識の違いという、研究内容とは全く関係のない極めて些細なことを契機として、指導教授という地位・権限を利用し、2014年4月に派遣したばかりのフィールドワークを同年5月初めに一方的に中止して原告に帰阪を命じ、指導教官としての指導をも中止して、これにより、原告の修士論文の完成も不可能とさせ、最終的には退学に至らせたことで、原告に対して大学院生・研究者として決定的な打撃を与えました。

(2)関西大学による、原告のハラスメント相談・申告の放置・遅滞、不十分な対応等

関西大学は、原告から幾度も(1)のアカデミック・ハラスメントについて速やかに適切な措置をとるよう要求されていながら、数ヶ月も調査の放置・遅滞をし、さらに、指導担当教授の行為を、①「組合活動などの自主的な活動に対する干渉とも評価しうる」とか、②「一方的に研究中止を通告することは、指導教員として不適切な対応と評価せざるをえない」などと認定したにもかかわらずハラスメントに該当しないなどと結論づけるという不当な対応をしました。

 

3 判決

大阪地裁判決は、(1)及び(2)のアカデミック・ハラスメントに関し、事実認定に少々不十分な点はあったものの、指導担当教授(及びT教授)による労働組合活動の自由の侵害、不合理な理由による一方的な遠隔地滞在型フィールドワーク派遣・指導の中止、並びに、関西大学による調査の放置・遅滞について、それぞれ違法性を認め、(1)につき指導担当教授と関西大学に連帯して約87万円、(2)につき関西大学に6万円の、原告に対する賠償責任を認めました。

なお、本事件を審理したのは、大阪地裁第5民事部の内藤裕之裁判官、甲斐雄次裁判官(結審後に異動)、大寄悦加裁判官です。

 

4 さいごに

アカデミック・ハラスメントに限らず、ハラスメントは「他者」に見えないところで行われることが多く、証拠が残りにくいという問題があります。しかしこの件では、指導担当教授のハラスメントが主にメールやサイボウズによる執拗なメッセージ送信でなされており、原告がそれらを保存していました。また、指導担当教授とT教授によるハラスメントの共謀もメールで行われており、それらのメールも被告らに訴訟の中で提出させることに成功しました。これらの証拠が裁判所の事実認定に寄与して、本件でのいくつかの違法認定につながったのです。

被告らが判決直後に控訴をしたことから(さらに仮執行宣言付判決に対する強制執行停止の申立てもされました。関西大学は、原告のハラスメント相談・申告は放置しておきながら自己のことになると迅速に動いた、ということです)、原告も地裁判決の不十分な点を克服するため控訴をしており、現在、闘いの場は大阪高裁に移っています。原告代理人は、当事務所の谷真介と私が担当しています。