解決事例報告

給料は会社に取りに行かなければならないのか?

2018.04.13 中西基

「会社を辞めたくても辞めさせてもらえない」というご相談を受けることがあります。
よく問題になるのは、「最後の給料を払ってくれない」、「会社に取りに来たら払ってやる」と言われて払ってくれないというご相談です。

インターネット上の情報サイト(◯ahoo!◯恵袋とか、◯護士◯ットコムとか)では、「賃金は取立債務だから、会社に取りに行かなければならない」といった記述がよくありますが、正しくありません。

民法では、金銭の支払いについては、支払う側(会社)が支払いを受ける相手(労働者)のところまで持っていかなければならない(持参債務)というのが原則です(民法484条後段)。
ただ、昭和38年の判決(東京高裁昭和38年1月24日決定)では、「給与債権は、従業員が営業所において労務に従事し、その代価として給料を請求するものであるから、暗黙の合意がなされたと認められる別段の事情又は合意のない限り」「支払場所は双方に好都合である使用者の営業所である」と判断されています。

この50年も前の判決が、給料の支払場所は営業所であると判断したことを理由に、「会社に取りに行かなければならない」という情報が今でもまことしやかにインターネット上ではまかり通っているのではないかと思われます。

50年前ならいざ知らず、今どき、給料を現金手渡しで支払っている会社がどれだけあるのでしょうか。多くの会社では、給料は銀行振込で支払うという「合意」又は「暗黙の合意」があるはずです。また、退職した後に支払期日が到来する場合には、退職した労働者をわざわざ会社まで受け取りに来させる合理的な理由などまったくありません。

実際にも、給料の支払方法について、労働協約や就業規則等に定めがなく口座振込の方法で支払っていた会社について、賃金支払債務の義務履行地は労働者の自宅であると判断した裁判例があります(大阪高裁平成10年4月30日決定・判タ998-259)。また、退職金については、「雇用関係の存続を前提とするものではないから、その支払場所が、賃料債権の場合のように、双方に都合の良い使用者の営業所であると解すべき合理的理由はな(い)」として、持参債務であると判断した裁判例があります(東京高裁昭和60年3月20日)。

したがって、これまで銀行振込で払っているのに、退職したとたん、最後の給料については、「会社に取りに来い」、「会社に取りに来ないなら払わない」といった言い分は間違いだと考えられます。これまで銀行振込で給料が払われていた会社であれば、給料は銀行振込で払わなければなりません。給料が支払われなければ、会社には、遅延損害金のペナルティーがあります。株式会社や有限会社の場合の遅延損害金は年6%で、労働者が退職した後は年14.6%になります。

「会社に取りに来い」と言われたら、「遅延損害金14.6%をプラスして銀行振込して下さい」と反論しましょう。