解決事例報告

障がいのあるバス運転手に対する「勤務配慮」が打ち切られた事件

2011.12.02 中西基

Aさん(43歳)は、1992年に入社した路線バスの運転手です。Aさんは、1997年に「腰椎椎間板ヘルニア」手術の後遺症で「神経因性膀胱直腸障害」「排尿・排便異常」の障がいが残りました。排尿や排便を自分の意思でコントロールすることができず、下剤を服用するなどして数時間をかけて強制的に排便しなければならないのです。
当時、会社には「勤務配慮」という制度がありました。これは、心身の状況や家庭の事情等によって、通常の勤務が困難な労働者について、勤務に支障が生じないように必要な「勤務配慮」を行うという制度です。Aさんは、毎日就寝前に下剤を服用し、翌朝起床後に強制的に排便していますが、排便を完了するまでに2~3時間かかってしまうことから、①乗務シフトは毎日午後からとする、②時間外労働は避ける、③前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を最短でも12時間以上空けることとする、という「勤務配慮」が行われてきました。
ところが、会社は、2011年1月から「勤務配慮を廃止して、通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告し、実行されたのです。その結果、Aさんは勤務時間に合わせた排便コントロールができなくなり、2011年1月だけで当日欠勤が3回、2月は6回、3月は8回もに及ぶことになりました。このままでは解雇されたり退職せざるを得なくなることが明らかな状態でした。
Aさんは、「勤務配慮」を受けない通常の勤務シフトでの勤務する義務のないことの確認を求める裁判を提訴しました。現在、神戸地裁尼崎支部で裁判が係属中です。
身体や精神に長期的な障がいがある人への差別撤廃・社会参加促進のため、2006年に国連総会で「障害者権利条約」が採択されました。そこでは、①直接差別、②間接差別、③合理的配慮の欠如の3類型をいずれも障がい者に対する差別にあたるとして禁止しています。2011年3月現在の批准国は99か国ですが、日本はまだ批准していません。2007年9月に署名し、現在国内法を整備して批准に向けた準備が進められている段階です。
本件における「勤務配慮」は、障害者権利条約の「合理的配慮」に当たるものであり、これを一方的に廃止することは、障害者権利条約が禁止している障がい者に対する差別に該当します。会社は、乗務員間の不公平感を言いますが、会社には370人もの運転手が在籍しており、Aさんへの勤務配慮を続けることは決して困難ではないですし、多くの運転手の人たちはAさんの事情を知れば不公平感を持つことはないはずです。そのような啓発活動こそ、会社が行っていくべきです。
障がい者が安心して働ける・生きられる社会は、障がいを持っていない者にとっても働きやすい・生きやすい社会です。Aさんの提訴は、決してAさんだけのためではありません。障がいを持ちながらも、また障がいを持つようになっても、安心して働けることを願う、すべての人々のためでもあります。

<追記>

本件は、大阪高裁で和解が成立しました。詳細は弁護団の岩城穣弁護士のブログを御覧ください。
http://yutachan.cocolog-nifty.com/blog/2015/03/no228-8b1f.html