IRカジノ住民訴訟 3つの原告団の解説
1 はじめに
大阪IR・カジノ事業開業に向けた準備が進められています。大阪市の財産である夢洲(ゆめしま)が大阪IR・カジノ事業に使用される問題について、現在まで、3つの原告団が、6つの住民訴訟を提起しています。複雑になった各住民訴訟の概要について述べます。当事務所から、西川、米田が第2次訴訟の弁護団の一員です。
何が何でも大阪IRを実現しなければならない大阪市(大阪維新の会)が、IR事業者(大阪市の事業者公募に申し込んだのは大阪IR株式会社1社のみ)に逃げられるわけにはいかないため、可能な限りIR事業者の負担を大阪市が肩代わりし、IR事業者に便宜を図るために、後述のような、大阪市が損失を被る違法な財務会計行為をしてきたものと考えられます。
一連の住民訴訟では、複数の弁護団が、後述のように多様な法的アプローチを用いて、大阪IR・カジノ事業の問題を明らかにすべく活動をしています。IR開業へ向けた手続が進むに連れて、違法な財務会計行為が次々と明らかとなり、そのそれぞれが住民訴訟まで進んでいること自体が、手続の強引さ・杜撰さ、住民への説明不足など、大阪IR・カジノ事業の異常性が表れているといえます。
また、国は、申請の手続に瑕疵があった場合や本件借地権設定契約締結が差し止められた場合(住民訴訟で住民側が勝訴した場合)には、区域整備計画の認定を取り消す可能性があると示唆しました。夢洲を会場とする大阪・関西万博がすでに開幕されており、大阪市民だけでなく、全国民の注目が集まっています。住民訴訟及び市民活動を通じて大阪IR・カジノ事業を止めなければなりません。
2 大阪IR・カジノ事業の準備の経緯について
2023年4月14日、国(国土交通省)は、大阪府と大阪IR株式
会社(以下、「IR事業者」という。)が申請した「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域(以下、「大阪IR区域」という。)の整備に関する計画」を認定しました。
同年9月28日、大阪府市とIR事業者の間で、「大阪IR区域整備等実施協定」及び「事業用定期借地権設定契約」(以下、「本件借地権設定契約」という。)が締結された。あわせて、大阪府市とIR事業者の役割分担やIR用地の使用に関して「大阪IR区域の立地及び整備に係る土地使用等に関す
る協定」が締結され、翌29日には「大阪・夢洲地区特定複合観光施設用地(以下、「大阪IR用地」という。)に係る土地改良事業に関する協定」が締結されました。
同年12月1日には、大阪市とIR事業者との間で「大阪IR用地に係る液状化対策等工事市有財産使用貸借契約」(以下、「本件使用貸借契約」という。)が締結され、同月4日より、IR事業者が発注した建設会社による液状化対策工事・地中障害物撤去工事が開始されました。
2024年9月30日、大阪市は、IR事業者との間で「土地引渡しに関する合意書」を締結し、これに基づき、同年10月1日に借地権設定登記がなされ、IR用地の大部分を引き渡しました。
市民の知らないところで2030年予定の大阪IR開業へ向けた手続・準備が次々と進められている中、待ったをかけようとしているのが大阪地裁に係属中である6つの住民訴訟です。
3 第1次訴訟原告団の訴訟について
(1)第1訴訟
2022年7月29日、本件借地権設定契約の差止めを求め、さらに、大阪市がIR事業のために行う土壌汚染の除去などの土地改良事業費用を負担する旨の合意締結等の差止めを求める訴訟が提訴された(以下、「第1訴訟」という。)。
第1訴訟では、本件借地権設定契約の違法性のみでなく、788億円(それ以上に膨らむ可能性もある)にも上るコストのかかる当該土地の改良費用を大阪市が負担することの違法性についても、主張されています。
(2)第6訴訟
2024年12月23日、後述する、第3訴訟と同様に、大阪市が本件使用貸借契約を締結したことにより、得られるはずの賃料分の損害が生じたとして、大阪市に対し、現大阪市長、現大阪港湾局長、IR事業者に対して損害賠償請求を行うよう求め、求めないことの違法確認する訴訟が提訴された(以下、「第6訴訟」という)。
3 第2次訴訟原告団の訴訟について
(1)第2訴訟
2023年4月13日、本件借地権設定について、その賃料が1㎡当たり月額428円(以下、「本件賃料」という。)と著しく廉価に設定されていることに焦点を当て、本件借地権設定契約の差止めを求める訴訟が提訴された(以下、「第2訴訟」という。)。
大阪市が依頼した4社の鑑定業者のうち、3社の鑑定結果が完全に一致(月額428円)し、各鑑定業者が専門的知見に基づき独立して調査・鑑定を行った結果としては不自然であり、鑑定結果の不当な示し合わせが疑われました。また、第2訴訟弁護団が入手した、大阪市の担当者と不動産鑑定業者との間のメールの中から、①「IR事業を考慮外」として鑑定をすることや、②夢洲に新駅が開業することが確実であるにも関わらず、隣の島の駅であるコスモスクエア駅を最寄り駅とする旨の示し合わせ、③大阪市が、不動産鑑定業者1社の設定した鑑定条件を、他の3社にメールで共有し、不動産鑑定業者間における鑑定条件の違法な示し合わせを積極的に関与していたこと、が明らかとなりました。不当な鑑定方法や鑑定条件等に基づいた鑑定評価に基づいて定められているため、本件賃料は、地方自治法237条2項などが禁止している、「適正な対価」とはいえないと主張します。
(2)第5訴訟
2024年12月16日、本件借地権設定契約により、IR用地の適正な賃料と本件賃料との差額分の損害が生じたとして、大阪市に対し、現大阪市長・前大阪市長、現大阪港湾局長・前大阪港湾局長のみならず、IR事業者、IR用地の鑑定を行った不動産鑑定業者4社、そして、実際に各鑑定に関わった不動産鑑定士17名に対して損害賠償請求を行うよう求める訴訟が提訴された(以下、「第5訴訟」という。)。
第5訴訟では、不動産鑑定士の協力のもと、IR事業を考慮することや、新駅開業を前提とすることなどを鑑定条件とした場合のIR用地の適切な賃料を調査し、適正な賃料との差額が本件借地権設定契約の終了する2058年4月まで、約33年半にもわたって、総額1044億9656万3550円にものぼる損害が大阪市に発生します。
4 第3次訴訟原告団の訴訟について
(1)第3訴訟
2024年9月9日、大阪市が本件使用貸借契約を締結したことにより、得られるはずの賃料分の損害が生じたとして、大阪市に対し、現大阪市長、現大阪港湾局長、IR事業者に対して損害賠償請求を行うよう求め、求めないことの違法確認する訴訟が提訴されました。(以下、「第3訴訟」という。)。
(2)第4訴訟
同日、大阪市が、大阪市がIR事業者によるIR事業のために行う土壌汚染の除去などの土地改良事業費用の負担をする旨の合意締結等の差止めを求める訴訟が提訴された(以下、「第4訴訟」という。)。
本件土地の土壌汚染の除去などの土地改良工事が、大阪市の負担で行われていることに加えて、第2訴訟で著しく廉価な賃料と主張される本件賃料すらも発生せず、大阪市は、IR事業者に対し、本件土地を無償で貸与しています。地方自治法237条2項などが禁止している、市有財産の「適正な対価」ではないと主張しています。